
「見ること」と「話すこと」
佐々木亨
士別市立博物館は1981年に開館し、昨年(2022年)に40周年を迎えた、士別地域の歴史、自然や文化芸術を扱う総合博物館である。中村氏は歴史を専門とする学芸員であり、主に屯田兵の開拓から現在に至るまでの歴史に関する展示の準備、講座の企画運営を担当している。
地域と関わる姿勢について、中村氏は「個人として活動しながら学芸員としての自分を外に広げていく」と語った。自身が担い手として関わってきた郷土芸能「日向神代神楽」の伝承活動を例に挙げ、地域の人々との交流を深めることで、ミュージアムの活動に興味関心を持つ市民が増えた。また、これまでの関係性を活かし、郷土芸能の記録として日向神代神楽を動画で撮影する際にも、市民からの協力を得られたという。学芸員が個人として地域に関わった活動は博物館の活動に直結している事例である。
中村氏は、学芸員は自ら地域に出向かい面白い話題を提供し、外部に向けて博物館の魅力を伝えていくことが大切であると考えている。さらに、ミュージアムの存在意義を支えるのは、展示だけではなく、地域に発信していく学芸員の力も必要不可欠だと語った。
士別市立博物館は年間を通して、館内の講座と出前講座を多数開催している。ミュージアムの講座を通じて、市内外の人々に来てもらい、士別に関わってもらうことはミュージアムが地域に貢献する可能性の一つであると説明した。また、講座を通じて地域のまちづくりにも貢献したいという思いを持ち、士別の歴史に絡めて地域の活性化につながる取り組みも今後積極的に考えていきたいという。
特に子供を対象に地元の歴史や文化を学んでもらうための講座を頻繁に開催している。学校の要望に応じて、学校に出向いて実施するものもあれば、フィールドワークに出て地元のことを知ってもらうこともある。他には、「士別市の今と昔」という士別市の昔の写真の撮影場所を訪れて、今の風景と見比べて、士別市の街並みの変化を博物館の学芸員が解説するYoutube動画も学校の授業で活用されている。
教育委員会社会教育課の主催事業「土曜子供文化村」では、士別市立博物館は「ふるさと自然歴史体験館」というプログラムを担当している。小学生4年生以上を対象に、士別の自然や歴史を感じてもらう内容で、通年で募集している講座である。リピート参加の子供も多く、たまに町に行ったら、この活動に参加した子供に「あ!博物館の人だ」と指をさされることもよくあるという。
最近は漫画やゲームの影響で昔の道具や民族の話題に対して興味を持つ子供が増え、博物館の展示物がゲームの中に出てくるものとして知られている場合もある。現在、ミュージアムの見学は小学校3、4年生が中心になっているが、今後はさらにミュージアムを利用してもらうために、学校の先生と協力して、全学年が博物館見学に参加できるようにすることや出前授業を充実していくと話した。
(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年1月18日