矢野 ひろ
株式会社ノーザンクロス・NPO法人北海道遺産協議会事務局

まちづくりの観点から
地域の「遺産」を
発信・支援活動

 矢野氏は北海道にあるまちづくり会社の一員として、NPO法人北海道遺産協議会の事務局業務を担っている。NPO北海道遺産協議会は現在74件ある北海道遺産の魅力を広く発信していくとともに、これらの遺産を地域で守り伝えていく担い手の活動を支援し、地域の中で活用しながら地域の活性化につなげていくことを目的とする組織である。
 これまで、北海道遺産に関する情報を収集する際は各地域にあるミュージアムや歴史に詳しい市民、語り部など専門家に依頼し、そのたびごとに情報を入手してきたが、北海道遺産の件数が増えるにつれて、事務局内に散らばっている情報を整理していく必要が出てきた。今後は各地のミュージアムや各地域の担い手との連携を進めて、北海道遺産に関する情報の追加・再発見および地域の人々との協力関係を築いていくための仕組みを計画しているという。

 例えば、北海道遺産協議会ではまちづくり団体を対象とした助成金事業を展開しているが、最近はまちづくりに視点を置くミュージアムが積極的に助成金を活用する事例も多くみられるようになってきた。そのなかで、今年度(2022年度)に標茶町博物館「ニタイ・ト」、霧多布湿原センターを会場に、「北海道遺産フォトコンテスト」の入賞・入選作品を中心に展示する「北海道遺産巡回写真展」では、展示室の借用にととまらず、ミュージアムと地域の人々とともに展示を制作することを試みたという。まちづくりに関心を持つミュージアムや地域の人々との関係性を深めることによって、地域の魅力をより多くの人に伝えることができると期待されている。

ミュージアムとの
協働を通じた相乗効果に期待

 北海道遺産の取組みは「まちづくり」という大きな目的のもとで展開されている。そのため、情報の収集活動においては、地域で活用できるものとして地域の資料や情報がどういう形であるべきかを、ミュージアムの学芸員と相談しながら進められることが望ましい。観光や生涯学習、芸術など多様な角度から地域の魅力を発信していくことを見据えて、ミュージアムとともに地域資料に関する情報収集のモデルづくりを進めていきたいと矢野氏はいう。その理由は多様な背景を持つ来館者を対象に展示の文脈、資料の説明を伝えるために常に考えたり、実践したりしている学芸員の「表現力の豊かさ」だ。ミュージアムを飛び出して、北海道遺産でも力を発揮してほしいという思いを明かした。
 矢野氏は長年まちづくりに携わってきた立場として、横のつながりに着目したネットワークづくりのノウハウを持っている。北海道遺産の活用について、北海道遺産は、

 北海道全体の歴史や文化、生活文化などを取り上げたストーリーとして構成されているため、ミュージアムが横断的に他の地域をテーマに取り上げる際には、接着剤のような役割を果たすことができると話し、ミュージアムとの関わりに意欲を示した。
 ミュージアムとの協働は、学芸員の多様なスキルを吸収するとともに、今後の北海道遺産を発信していくためのネットワーク作りにもつながる。そしてミュージアム側も北海道遺産を活用した横のつながりが展開されていくという相乗効果が期待されている。

(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年1月13日