森 沙耶
株式会社サイバコ

サイエンスコミュニケーション
を通じて、
専門知と社会をつなぐ

 株式会社サイバコのディレクターである森氏は、サイエンスコミュニケーションの分野で幅広く活動している。札幌市青少年科学館での展示業務から始まり、その後、北海道大学の理学院で修士課程、教育学院で博士課程へと進んだ。研究を通じて、展示の評価や来館者の体験を分析し、科学館の課題に取り組んでいる。また、修士論文在学中には、北海道大学CoSTEPの学術研究員として、研究者のインタビュー記事の作成や学術広報の仕事に携わった。その後、2023年にCoSTEPの知見を活用し北大発スタートアップ企業として株式会社サイバコを設立した。
 株式会社サイバコを設立した背景には、サイエンスコミュニケーターの活躍の場を広げるという目的がある。これまで、サイエンスコミュニケーターは個人事業主や副業として活動することが多かったが、CoSTEPの修了生が専門知識を活かし、持続的に活躍できる環境を整える必要があると考え、大学の枠を超え、社会全体とつながる場を提供することを目指している。
 科学館での経験を通じて森氏が感じた課題の一つに、展示評価の方法がある。来館者数などの量的指標に偏りがちで、実際の体験や学びの質が十分に反映されないことが問題だった。そのため、展示の効果をより適切に評価し、改善に生かすための質的な評価手法を模索するようになった。また、CoSTEPでの活動を通じて、ミュージアム初心者のニーズに合わせたガイドや支援が重要であることを実感した。自由に展示を見ることが推奨される一方で、ある程度の解説があることでより深い理解につながる可能性がある。
 森氏は、サイエンスコミュニケーションを理系の枠にとどまらず、人文科学を含めた幅広い分野と社会をつなぐ活動と捉えている。ミュージアムもまた、学術的な知見を市民と共有する場であり、広義のサイエンスコミュニケーションの一環と考えられる。今後も、ミュージアムや研究機関と社会を結びつける活動を通じて、専門知がより多くの人々に届く環境を作っていきたいと語った。

株式会社サイバコでの
活動を通じて、
多様なミュージアム体験を支援

 森氏は、ミュージアム体験をより充実させるための活動に取り組んでいる。現在進行中のプロジェクトの一つとして、あるミュージアムと協力し、来館者向けのミュージアムキットの開発を試みている。
 森氏の研究テーマは、ファミリーや個人来館者が展示をより円滑に楽しめるような支援の在り方であり、その知見を活かしながら、学びを深める教材の開発を進めている。この学習支援教材の開発では、ミュージアムの展示内容に合わせた教材を企画し、ミュージアムショップでの販売を視野に入れている。開発の過程では、ミュージアムのスタッフやショップ運営者の意見を取り入れ、展示コンセプトに沿った教材づくりを重視している。
 さらに今後の展望として、ミュージアム関係者へのインタビューを通じて、彼らの仕事や博物館の価値を伝えるシリーズの制作を検討している。博物館では市民の生活に関わる資料を収蔵し、そのエピソードと共に保存するが、これらの活動は表立って注目される機会が少ない。しかし、こうした仕事こそが博物館の存在意義を支えており、その価値を広めることが重要だと森氏は語った。
 森氏は現在特定のミュージアムに所属せず、ミュージアム業界全体を盛り上げる役割を担いたいと考えている。現場の人々に着目したコンテンツを発信することで、ミュージアムで働く人々のモチベーション向上や、一般の人々が学芸員の仕事を理解する機会を提供することを目指している。

(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年8月2日