小田桐 亮
倶知安風土館

地域の自然を子ども・大人に伝え、
ミュージアムの裾を広げる

 倶知安風土館は、羊蹄山やニセコ連峰の自然や歴史を調査、収集し、地域の情報を発信する町立の総合博物館である。小田桐氏は、特に地域の自然に関する情報収集に力を入れており、近年、開発が進むひらふ(比羅夫)地区の自然、生き物を記録することを重要視している。
 同館ではミュージアムを身近に感じてもらう多様な活動を展開している。例えば、小田桐氏が着任後に開始した「寺子屋ミュージアム」では、小学生・中学生を対象に、昆虫採集や植物採取などを通じて、地域の自然について学ぶ機会を提供し、ミュージアムの地域における存在意義を発信している。この「寺子屋ミュージアム」は夏休みを中心に実施され、今では定員を超える人気企画へと成長した。また、従来の観察会「ふるさと探訪」は地域の大人や町外の参加者から高い関心を集め、リピーターも多い人気イベントになっている。この既存の活動に加え、地域住民が調査活動に関わる「倶知安風土館いきもの調査隊」も発足した。
 ナメクジは気持ち悪いと敬遠されがちだが、幼稚園の子どもたちが興味を示したことで、先生方も関心を持ち、風土館のイベントに参加するようになった。昨年最も参加者が多かったのはナメクジのイベントであり、意外な広がりを見せたという話もあった。
 地域の自然に親しむ活動を継続的に行うことで、博物館の役割は単なる「展示の場」ではなく、「地域を調査・記録する場」であることを示そうとしている。さらに、今後はこれらの活動をより広く発信することで、多くの人々に地域の自然の魅力を伝え、博物館の役割をさらに周知していくと話した。

地域の専門家とともに、
地域課題を発見・共有していく

 倶知安風土館では、地域の専門家と連携しながら教育普及活動を展開している。その一環として、先述の「寺子屋ミュージアム」では、地域の自然や歴史に精通したガイドや研究者が講師を務める。たとえば、羊蹄山やニセコ連峰に関するイベントでは、普段から倶知安風土館と協力して生き物の調査や山の維持管理を行う専門家が関わることが多い。
 また、地域の課題を発見し解決する取り組みとして、風土館は山岳ガイドや地元の関係機関と情報共有を行っている。羊蹄山やニセコ連峰の登山道整備に関しては、地元ガイドの意見をもとに環境省や文化庁、観光協会などと連携し、安全で持続可能な登山環境を整える取り組みを進めている。このようなネットワークを築くことで、単なる書類上のやり取りにとどまらず、実際に顔を合わせて気軽に課題を共有できるような関係性が築くことができている。
 一方で、倶知安風土館では、小学生の利用は活発だが、中高生の参加が少ないのが現状である。そのため、中学校・高校との連携を深め、カリキュラムに組み込むことで、若年層にも博物館を活用してもらう機会を増やそうとしている。実際に、小学生の頃から風土館を訪れていた生徒が中学進学後に生物部を創設しようとする動きがあり、風土館での体験が長期的な影響を与えていることがうかがえる。
 さらに、風土館は隣接する博物館や地域施設との協力関係を強化している。2022年には蘭越町の貝の館と博物館連携協定を結び、情報共有や事業提携を進めている。単なる協定にとどまらず、実際の活動に落とし込むことで、地域全体の文化資源を活用しながら、より効果的な教育普及活動を実現しようとしている。

(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年5月19日