小田島 賢
厚岸町海事記念館

開拓の歴史を活動の中心に据え、
生涯学習支援を展開

 厚岸町には、海事記念館をはじめ、郷土館、大田屯田開拓記念館の3つの博物館があり、小田島氏はこれらの施設を兼務している。海事記念館では、漁業や科学に関する展示のほか、プラネタリウムを備え、郷土館では町の歴史を、屯田開拓記念館では屯田兵の歴史を紹介している。
 厚岸町は「花と味覚と歴史の町」というキャッチコピーを掲げ、地域歴史の発信に力を入れている。その一環として、近隣の小中学校の受け入れを積極的に行っている。例えば、道立施設「ネイパル厚岸」を利用した小学校5年生の宿泊研修の際には、施設見学を組み込み、児童たちが地域の歴史や文化に触れる機会を提供している。プラネタリウムの活用も進んでおり、他の博物館に比べて多くの生徒を受け入れることができる点が特徴だ。
 博物館ならではの強みとして、小田島氏は「ハコモノを持つこと」に着目する。大きなホールやプラネタリウム室を活用することで、多様な学習機会を提供できるのが利点である。例えば、厚岸町海事記念館では、アイヌ民族をテーマにしたプログラムを含む独自のプラネタリウムの番組を制作し、特色ある学習コンテンツを提供している。また、屯田兵に特化した博物館の存在も、厚岸町の博物館活動の大きな特色である。全国的に屯田兵に特化した展示を行う施設は少なく、町の歴史に深く根ざした活動を展開している。さらに、厚岸町では大田地区の住民は土地への愛着が強く、博物館の存在が地域の誇りをさらに深める役割を果たしていると感じている。

近隣の博物館と連携し、
地域の歴史をさらに掘り下げる

 釧路市立博物館との連携は近年本格化し、これまでは考古学や鉄道史などの共同調査が実現した。厚岸町海事記念館の展示「神岩チャシ跡及び竪穴群」において、釧路市立博物館から骨角器をはじめとする資料を借用するなど、具体的な成果を挙げている。このような取り組みは、地域の歴史に対する理解を深めるだけでなく、博物館同士の相互支援の可能性を広げている。また、道東三管内(釧路・根室・十勝)の博物館協議会を通じて、さらなる交流の機会を増やしている。例えば、別海町の博物館で開催された化石展示に資料を提供したり、藤野家の古文書を巡回展で展示するなど、幅広い分野で連携を進めている。これにより、地域全体の文化財調査・研究の進展が期待される。
 地域住民向けの活動として、厚岸大橋50周年に関連した歴史講話を開催した。本町地区と真竜地区は、厚岸湖と厚岸湾を挟んで二分される地形となっている。厚岸大橋が架かる以前はフェリーが運航されていたが、冬季には厚岸湖が結氷し、交通が遮断されることもあった。このような話を紹介することで、住民に改めて厚岸大橋の地域における重要性を伝えた。
 一方、海事記念館では、漁業専門の学芸員が不在であり、現代の漁業に関する展示が十分に整っていないという課題がある。今後は、地域の漁師と協力し、より充実した展示の実現を目指したいと小田島氏は語った。また、「30代から60代の働き盛り世代の学びの機会が少ない」という点も課題として意識している。小学生や高齢者向けの学習機会はあるものの、中間世代が博物館に足を運ぶ機会は限られている。これらの課題に対応するため、今後はさらに博物館間の連携を強化し、展示や教育普及活動を工夫することで、多世代にとって魅力ある博物館づくりを進めたいと意欲を示している。

(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年3月24日