
地域のハブへと進化するミュージアム、コミュニティアーカイブの役割を担う
蝦名未来
根室市歴史と自然の資料館は、昭和17年に建設された海軍の通信基地を転用した施設で、市内の考古資料や民俗資料、動物標本などを収集・展示している。
根室市は北海道内で五番目に遺跡数が多く、日本で見られる野鳥の約半数が生息するなど、研究素材に恵まれた地域である。この地の歴史・自然の調査を進め、まちづくりや観光に活かすことが資料館の役割の一つと考えられている。例えば、調査結果をもとにパンフレットや映像資料を作成し、観光資源として発信する取り組みが行われている。
近年、根室市を含む標津町・羅臼町・別海町の自治体が連携し、「日本遺産」に認定され、地域の歴史文化を活用する取り組みも進められている。標津町が鮭の水揚げの中心である一方、根室市は積み出し港としての歴史を持ち、別海町は内陸交通と関連するなど、それぞれの特色を活かしたストーリーを構築し、観光誘致に繋げようと取り組んでいる。また、根室市内の観光ガイド団体とも連携し、アイヌ民族の遺跡であるチャシ跡などを案内する活動も展開。観光客向けの説明板の整備や勉強会を通じて、歴史文化の魅力を伝える人材育成にも力を入れ続けている。
一方で、日本遺産の認知度向上は課題の一つである。歴史や文化財の魅力を掘り下げ、それを分かりやすく伝える作業には時間を要するが、ミュージアムの活動の中に位置づけて継続的に行うことの必要性を感じていると語った。
猪熊氏は、市内の町会や商工会議所などからの講演依頼に応じるほか、学校教育との連携にも力を入れている。
学校向けの教育プログラムでは、小学校への出前授業を実施し、教師と協議しながら授業内容を構築。根室市が持つ独特の歴史や文化、自然環境を活かし、子どもたちが地域の魅力を深く理解できるよう工夫している。例えば、地域で発掘された数千年前の土器や石器を見せることで、古くからの人々の暮らしや食料資源の豊かさを実感してもらう。
また、町内会組織からの講演依頼では、地名や文化財の背景を解説し、住民が地域への理解を深める機会を提供。さらに、日本遺産の取り組みや文化財の観光活用についても講演を行い、地域の歴史文化を広く発信している。特に、アイヌ民族が残したチャシ跡などの遺跡への関心が高く、観光資源としての整備が進められている。オホーツク文化や縄文文化の遺跡も含め、地域の歴史を伝える場としての資料館の役割は重要であり、今後も地域住民の興味関心に合わせ活動を展開していく。
さらに、地域の観光振興において、根室管内を含む自治体間の広域的な連携が重要であると語った。例えば、道内に約5,003か所あるアイヌのチャシ跡の整備や、各自治体の文化資源を活用した観光促進が、今後一層求められる。さらに、専門的な知識を持つ観光ガイドの育成による多角的な解説や、新たなストーリーの提供などにより、観光体験の質を高めることが期待できる。
自然教育の面では、学芸員がフィールドで解説を行うことの重要性を強調する。専門知識を生かした解説に加え、電子顕微鏡を用いた寄生虫の観察など、身近にありながらも目に見えない世界を可視化する取り組みが、教育的にも有意義であると話した。
最後に、学芸員として多様な立場の人々と対話する際には、歴史や文化の価値を簡潔かつ的確に伝えることを心掛けていると語る。解釈の多様性を理解し、広い視点を持つことが最も重要だとしている。
(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年3月24日