
地域のハブへと進化するミュージアム、コミュニティアーカイブの役割を担う
蝦名未来
だて歴史文化ミュージアムは2019年度に開拓記念館から新しくなり、伊達市の歴史と文化を総合的に展示する施設として生まれ変わった。縄文時代からアイヌ文化期を経て、明治時代の亘理伊達家の武家文化まで、多岐にわたる伊達市の歴史を紹介している。
当初は市の教育委員会による直営で運営されていたが、今年度から指定管理者制度が導入された。学芸員の蝦名氏は、来館者への案内や教育普及活動、自主事業の企画・実施など、多岐にわたる業務を担当している。指定管理者制度への移行により、柔軟な運営が可能となり、迅速な意思決定や多様な事業展開ができるようになったと振り返った。
また、地域との連携を重視し、文化財の貸し出しや他施設との協力を進めている。有珠善光寺などの歴史的施設との連携に加え、地元高校生と協力した展示用動画の制作、道の駅とのコラボレーションによる商品の開発・販売など、柔軟性を持った取り組みも行われている。ミュージアムが地域文化のハブとしての役割を果たし、多くの人に訪れてもらうきっかけを作ることを目指している。
一方で、市役所の管轄から離れたことで、来館者の声が行政に伝わりにくくなる懸念もある。今後も地域と密接に関わりながら、ミュージアムならではの強みを活かした活動を展開していくことが求められる。
蝦名氏は、伊達市の歴史と地域社会との関わりを大切にしながら、ミュージアムの役割を模索している。同市は移住の歴史を持ち、古くから住み続ける住民も多いことから、地域との結びつきが強い。そのため、ミュージアムは単なる展示施設にとどまらず、地域の文化資産を保存・継承する場としての役割を果たしている。特に、伊達市には侍が移住した歴史があり、刀や甲冑などが代々受け継がれてきた。しかし、維持が難しくなった際にはミュージアムへ寄贈されることも多い。また、世界遺産に登録された北海道・北東北の縄文遺跡群に関連し、市内の他施設との連携も進めている。地域の文化財の情報提供を通じて、訪問者が他の歴史的施設へも足を運ぶきっかけを作る「ハブ施設」としての役割も担っている。
地域の人々にミュージアムを身近に感じてもらう工夫もされている。2019年の開館以来、一度も訪れたことのない市民も多いため、3月3日を無料開放日とし、雛人形の展示を行うなどの取り組みを行っている。また、小学生の見学時には、伊達市の歴史の重要性を強調して伝えることで、幼少期の体験が大人になっても記憶に残るよう努めている。
市民団体との協力も積極的に進めている。例えば、市民サークルと共同で雛人形の対話型鑑賞会を実施し、参加者同士が感想を述べ合う機会を設けた。また、クリスマスには絵本の読み聞かせサークルと連携し、幼児向けのイベントを開催。さらに、地元の音楽家とコンサートを企画するなど、多様な団体と連携しながら、地域に開かれた施設づくりを進めている。
蝦名氏自身も、市民サークルの一員としてコミュニティFMのラジオ番組に参加し、まちに関わる話題とか、議会の傍聴に行ってみようとか、そういう政治の話からいろいろなまちで起こっていることとか、いろいろ活動している人をゲストに招いたりして、まちのお話をする番組をしたりという地域の話題を発信している。
北海道内でも歴史的な背景や貴重な文化財が豊富に存在する伊達市だが、地元の住民にとってはそれが当たり前になり、ミュージアムを訪れたことがない人も少なくない。 そうした状況を踏まえ、同館では気軽に訪れるきっかけを作る取り組みを進めている。例えば、3月3日のひな祭りには無料開放日を設け、多くの市民に来館を促した。また、地元高校の家庭部と協力し、菓子作りの動画を制作。お菓子の展示と連動させることで、実際に作る楽しさを伝えた。 また、学校団体の見学では、児童・生徒の年齢に応じた解説を行うほか、年間パスを市内の小中学生に配布し、リピーターの増加を図っている。しかし、再来館する子どもはまだ少なく、自由研究や調べ学習の場として活用してもらうにはさらなる工夫が必要だという。地域の歴史を伝えるだけでなく、子どもたちにとって身近な学びの場となるよう、ミュージアムの役割を拡大していくことが求められている。 今後は、ミュージアムを拠点にした「寺子屋」的な定期活動を展開し、子どもたちが地域の歴史や文化に親しめる機会を増やしていきたいと語る。自身も小学生時代に亘理小学校との姉妹校で宮城県亘理町に行った体験が現在の仕事につながっていることから、地域の子どもたちに同様の経験を提供することで、地域の文化・歴史に親しむきっかけを提供していきたいと考えている。
(執筆:卓彦伶)
取材日:2023年3月7日